治療法の選択
睡眠時無呼吸のマウスピース治療|効果・費用・保険・限界
久井 宏真
2026/9/7
睡眠時無呼吸のマウスピース治療は、睡眠中に専用の口腔内装置を装着し、主に下あごを前方に保つことで、喉の空気の通り道を確保しやすくする治療です。 軽症・中等症の閉塞性睡眠時無呼吸や、CPAPを続けることが難しい場合などに検討します。
ただし、装置を作れば全員の無呼吸が十分に改善するわけではありません。 睡眠検査による診断、歯科での適応判断と調整、装着した状態での効果確認までを含めて考えることが大切です。
この記事では、成人の閉塞性睡眠時無呼吸を中心に、マウスピースの効果、保険・費用、作製の流れ、副作用と治療の限界を解説します。
睡眠時無呼吸のマウスピースは、何をする装置?
睡眠時無呼吸に使うマウスピースは、「口腔内装置」「スリープスプリント」などとも呼ばれます。 代表的なのは、上下の歯に装着して下あごを前方に保ち、睡眠中に気道が塞がりにくくする装置です。
小型で持ち運びやすく、一般的な装置では電源やチューブを必要としないことが利点です。一方、睡眠中に口の中へ装着するため、歯やあごへの負担、使い心地の確認が必要になります。
この治療の主な対象は、気道が狭くなったり塞がったりする閉塞性睡眠時無呼吸です。呼吸の指令に関わる中枢性睡眠時無呼吸を、同じ装置で治療するという意味ではありません。
歯ぎしり用のマウスピースとは違う?
歯を保護するための装置と、下あごの位置を調整して気道を確保する装置では、目的や設計が異なります。 すでに歯ぎしり用のマウスピースを持っていても、それが睡眠時無呼吸の治療になるとは限りません。
市販品を自分で装着することと、睡眠検査の結果を踏まえて歯科で作製・調整する治療も、区別する必要があります。米国の診療ガイドラインでは、既製品よりも、患者に合わせて作製し、下あごの位置を調整できる装置を提案しています。
どのような人に向いている?重症でも使える?
マウスピースは、無呼吸の程度だけでなく、本人の希望やCPAPの使用状況、歯・あごの状態を踏まえて検討します。 CPAPが使用できない場合や、別の治療を希望する場合にも、選択肢となります。
ただし、無呼吸・低呼吸や酸素低下を抑える効果は、一般にCPAPの方が高く、特に重症ではCPAPが基本的な選択肢です。重症でマウスピースを検討する場合も、無呼吸が十分に抑えられるかを確認することが重要です。
「重症だから絶対に使えない」でも、「使いやすそうだから重症でも同じように置き換えられる」でもありません。どの程度の改善が必要かと、実際の治療効果を合わせて判断します。
歯が少ない・歯周病・あごの痛みがあっても使える?
装置を安定して支えられる歯があるか、歯周病やむし歯がないか、あごを動かす際に問題がないかを歯科で確認します。 歯の本数だけでなく、残っている場所や健康状態、かぶせ物の状態なども判断材料になります。
重い歯周病で歯がぐらついている、歯科治療によって歯の形が変わる予定がある場合などは、先に歯の治療が必要になることがあります。装置を作れるかどうかは、口の中を診察して判断します。
「歯が何本あれば全員使える」「あごが小さければ必ず効く」という単純な判断ではありません。
マウスピースで、どこまで改善が期待できる?
適した方では、無呼吸・低呼吸、いびき、日中の眠気などの改善が期待できます。 一方、効果には個人差があり、装着後も呼吸の異常が残る場合があります。
特に区別したいのは、次の2つです。
「いびきが静かになった」という変化は、本人や家族にとって大切な改善です。しかし、それだけでは、無呼吸や酸素低下が十分に抑えられたかまでは分かりません。
「装着中の睡眠検査で、呼吸の異常が十分に改善していた」ことは、治療効果を判断する客観的な情報になります。マウスピース治療では、こうした睡眠検査による確認が勧められています。
装置が完成したことと、治療として十分に効いていることは別です。
保険は使える?紹介状は必要?
日本では、所定の条件を満たす睡眠時無呼吸の口腔内装置は、保険診療の対象になります。 医師による診断を踏まえ、歯科へ治療を依頼する流れが基本です。
2026年度の歯科診療報酬では、医科の担当医からの診療情報提供に基づく口腔内装置治療の依頼が、算定の条件とされています。医科と歯科が併設された病院では、条件を満たす院内紹介の取り扱いもあります。
そのため、歯科を予約する際は、「睡眠時無呼吸と診断されている」「マウスピース治療を相談したい」と伝え、紹介状や検査結果など、必要な書類を確認してください。
紹介状があれば、口の状態にかかわらず必ず装置を作れるという意味ではありません。 歯科でも、治療に適しているかを評価します。
いびきだけでも、保険で作れる?
睡眠時無呼吸と診断されておらず、いびきの改善だけを目的に作製する場合は、通常は自費診療です。 東京歯科大学水道橋病院でも、睡眠時無呼吸の治療と、保険外のいびき症の治療を区別して案内しています。
ただし、本人が「いびきだけ」と思っていても、睡眠時無呼吸が隠れている場合があります。先に診断を確認することは、保険の手続きだけでなく、必要な治療を選ぶためにも重要です。
費用はいくら?装置代と総額を分けて確認する
保険診療の費用は、装置の製作方法や診療内容、自己負担割合などによって変わります。 「マウスピース代」として紹介されている金額に、診察や検査が含まれているかも確認してください。
保険診療での装置料
2026年度の歯科診療報酬では、睡眠時無呼吸症候群に対する口腔内装置の製作料は、区分により次のように定められています。
装置の区分 | 診療報酬点数 | 装置料だけの3割負担額 |
|---|---|---|
口腔内装置1 | 3,000点 | 9,000円 |
口腔内装置2 | 2,000点 | 6,000円 |
区分は、主に材料や製作方法の違いによるものです。この数字は装置料だけの計算であり、治療全体の総額ではありません。 型取り、あごの位置の記録、装着などには別の算定があり、診察や必要な歯科検査の費用も加わります。
歯科医院の公表料金には、保険3割負担で約1万2,000円という案内例もありますが、口の状態や含まれる診療内容によって異なります。睡眠時無呼吸を診断するための医科の検査費用まで、すべて含む金額とは限りません。
自費診療の費用
自費診療には全国一律の料金がなく、装置や医療機関によって幅があります。 公表価格には、装置料4万円・税別という例や、特定の装置で17万8,200円・税込という例があります。これは価格差を示す例であり、相場の上限・下限や、当院の料金を示すものではありません。
作製前には、提示された料金に、診察、型取り、装着後の調整、効果判定の検査が含まれているかを確認しましょう。
「高い装置なら必ず無呼吸がなくなる」「安く作れれば、その後の診察は不要」ということではありません。 装置の適合と治療効果を、費用とは別に確認する必要があります。
マウスピースは、どのような流れで作る?
医科での診断、歯科での評価・作製、装着後の調整と効果確認を組み合わせて進めます。 歯科だけ、医科だけで判断を完結させるのではなく、それぞれの役割があります。
段階 | 主に行うこと |
|---|---|
1.睡眠時無呼吸の診断 | 睡眠検査の結果と症状から、治療の必要性を判断する |
2.歯科での適応評価 | 歯・歯周組織・かみ合わせ・あごの状態などを確認する |
3.型取りとあごの位置の記録 | 歯に合う装置を作り、下あごを保つ位置を決める |
4.装着・調整 | 外れにくさ、痛み、使い心地などを確認して調整する |
5.治療効果の確認 | 装置を使用した状態で、睡眠中の呼吸が改善しているかを確認する |
むし歯や歯周病の治療が必要な場合は、装置作製の前に対応することがあります。歯の形やかみ合わせが変わると、作った装置が合わなくなる場合があるためです。
完成までの期間や通院回数は、口の状態、装置の種類、調整の必要性によって異なります。旅行や出張で使いたい予定がある場合は、装置を受け取る日だけでなく、調整と効果確認までの予定を相談してください。
副作用はある?歯並びやかみ合わせは変わる?
マウスピースは手術をしない治療ですが、歯やあごへの影響がないわけではありません。 使用中には、次のような症状が起こることがあります。
起こり得ること | 確認したい変化 |
|---|---|
歯・歯ぐき・あごの不快感 | 特定の歯が痛い、朝にあごが疲れる、口を開けにくい |
口の中の症状 | 唾液が増える、口が乾く、装置が粘膜に当たる |
かみ合わせの変化 | 装置を外した後に噛み合わせにくい、以前と歯の当たり方が違う |
歯や装置の問題 | 歯のぐらつき、かぶせ物への影響、装置の破損など |
装着直後の違和感と、長く使用するうちに起こる歯の位置・かみ合わせの変化は、分けて確認します。痛みがないから、歯やかみ合わせへの影響もないとは限りません。
あごの痛みが続く、食事のときに噛みにくい、以前のかみ合わせに戻らない感じがある場合は、作製した歯科に相談してください。無理に我慢したり、自分で装置を削ったりして対応しないことが大切です。
作った後は、どのくらい通院する?
装着直後は、使い心地やあごの位置を調整し、その後も定期的に装置と口の状態を確認します。 「作製したら、その後は受診不要」という治療ではありません。
米国歯科睡眠医学会の2025年の診療標準では、最初の1年は6か月ごと、その後は少なくとも年1回の評価を示しています。実際の受診間隔は、開始直後の調整や症状に応じて歯科医師が決めます。これは日本の保険診療で一律に定められた通院間隔ではなく、経過を確認するための学会の目安です。
いびきや眠気が再び増えた、体重が大きく変わった、装置が緩くなった場合なども、次の定期受診まで放置せず相談してください。
毎回、精密検査を受ける必要がある?
歯科で装置の状態を確認することと、睡眠検査で治療効果を確認することは、別です。 毎回の歯科受診で入院検査を受けるという意味ではありません。
装置を調整した後には、睡眠検査によって十分な効果が得られているかを確認します。検査方法や時期は、症状や治療の状況を踏まえて担当医が判断します。
効果が不十分だったら、どうする?
まず、装置が合っているか、指示どおり使えているか、下あごの位置の調整が必要かを確認します。 調整しても十分な改善が得られない場合は、CPAPやほかの治療、組み合わせによる治療を検討します。
あごを前へ出す量を増やせば、必ずよくなるわけではありません。歯やあごへの負担もあるため、自己判断で強く調整するのではなく、効果と副作用の両方を見ながら進めます。
また、呼吸の状態が改善していても眠気が続く場合には、眠気だけで装置の効果を否定せず、担当医に症状を伝えてください。いびき、眠気、睡眠検査の結果は、それぞれ確認する情報です。
CPAPから切り替えたり、旅行中だけ使ったりできる?
マウスピースへの切り替えや、状況に応じた使い分けを検討することはあります。ただし、その人に十分な効果があると確認することが前提です。 CPAPと口腔内装置を組み合わせて使用する方法もあります。
「旅行中は小さい装置で済ませたい」という希望は伝えて構いませんが、作ったばかりの装置を、自己判断でCPAPの代わりに使うことは避けてください。 旅行中であっても、睡眠時無呼吸への治療が不要になるわけではありません。
切り替えを考える場合は、今使っているCPAPをどう継続するか、いつ装置の効果を確認するかまで、担当医と歯科医師に相談します。CPAPで良好に治療できている方には、その治療の継続も重要な選択肢です。
毎日使う?手入れや作り替えは必要?
睡眠時無呼吸の治療として処方された装置は、基本的に毎晩、眠っている間に使用します。 いびきを指摘された日だけ使うのではなく、担当医・歯科医師の指示に従ってください。
使用後の洗浄や保管は、装置の説明に従います。熱に弱い素材では、熱湯による消毒で変形するおそれがあります。洗浄剤や保管方法も、装置に合うものを作製した歯科で確認してください。
装置が壊れた、緩くなった、歯の治療後に合わなくなった場合には、調整や修理、作り替えが必要になることがあります。見た目に大きな破損がないことだけで、いつまでも同じ効果が続くとは判断できません。
マウスピース治療は、装置を買うことではなく、自分に合う形に調整し、呼吸への効果と歯・あごへの影響を確認しながら続ける治療です。
ひさいクリニックで、睡眠時無呼吸の検査・CPAP治療を相談する
ひさいクリニックでは、睡眠時無呼吸が疑われる方に、オンライン診療と自宅での簡易検査を組み合わせた診療をご案内しています。
診察で症状を確認し、必要に応じて自宅簡易検査をご案内します。検査機器はご自宅へ郵送されます。届いた機器の説明を読み、ご自宅で装着して検査を行っていただく方法です。
予約 → オンライン診察 → 検査機器の郵送 → 自宅で検査 → 結果説明・CPAP治療の適応判断
検査後は結果をご説明し、CPAP治療の適応を判断します。検査を受けた方全員がCPAP治療を始めるわけではありません。
マウスピースの作製・調整は、対応する歯科で受ける診療です。当院のオンライン診療で、装置の作製まで完結するという案内ではありません。 希望する方は、診断結果と、作製を依頼する歯科で必要な書類をご確認ください。
「いびきや呼吸停止を指摘されている」「治療方法を選ぶ前に、睡眠時無呼吸の程度を知りたい」「検査結果を踏まえて、CPAPが必要か相談したい」という方は、WEB予約からご相談ください。