治療法の選択
睡眠時無呼吸症候群の治療法|重症度別の選択肢
久井 宏真
2026/9/7
睡眠時無呼吸症候群(SAS)の治療には、CPAP、マウスピース、体重管理や寝る姿勢の調整、手術などがあります。中等症・重症の閉塞性睡眠時無呼吸では、CPAPを中心に治療を検討し、軽症では症状や生活への影響に応じて方法を選びます。 全員が同じ治療を受けるわけではありません。
治療を選ぶ際は、無呼吸・低呼吸の回数だけでなく、眠気、睡眠に関連する困りごと、高血圧などの持病、本人の希望も確認します。「数値が低いから何もしなくてよい」「数値が高いから、ほかの条件は考えなくてよい」という判断ではありません。
この記事では、成人の閉塞性睡眠時無呼吸を中心に、重症度別の治療方針と、主な選択肢を解説します。中枢性睡眠時無呼吸や小児の治療は、ここで説明する成人の治療方針とは分けて考えます。
重症度によって、治療法はどう変わる?
重症度を表す代表的な指標が、AHI(無呼吸低呼吸指数)です。 実際に眠っていた1時間あたりに、無呼吸と低呼吸が平均何回起きたかを示します。成人では、一般に次のように分類します。
重症度 | AHI | 治療を考える際の目安 |
|---|---|---|
軽症 | 5以上15未満 | 症状や生活への影響に応じて、生活習慣の改善、マウスピースなどを検討する |
中等症 | 15以上30未満 | CPAPを中心に検討する。本人の状態や希望に応じて、ほかの方法も考える |
重症 | 30以上 | CPAPが基本的な選択肢。使用が難しい場合も、無治療のままにせず代替方法を相談する |
この表は、治療方針の目安です。重症度ごとに一つの治療が自動的に決まるわけではなく、その治療が保険で受けられる条件とも同一ではありません。
軽症:症状が乏しければ、生活習慣の見直しを中心にする場合もある
軽症で、症状がない、または日中の生活への影響が小さい場合は、生活習慣や睡眠習慣の見直しを中心に対応することがあります。 一方、強い眠気などで生活に支障がある場合は、軽症でも治療を検討します。
「軽症」は呼吸の異常の頻度による分類であり、「本人の困りごとも軽い」という意味ではありません。マウスピースなどの適応や、必要な治療について相談してください。
中等症:CPAPを軸に、症状や続けやすさも考える
中等症では、睡眠中の呼吸を改善するためにCPAPを検討します。 マウスピースが選択肢になる場合もありますが、歯やあごの状態、治療で十分な効果が得られるかを確認する必要があります。
「機械を使いたくない」「マスクが心配」といった希望は、最初の診察で伝えて構いません。希望する方法と、検査結果から期待できる効果を合わせて考えます。
重症:CPAPが難しい場合も、治療を諦めない
重症の閉塞性睡眠時無呼吸では、CPAPが第一に検討される治療です。 マウスピースでも改善する場合はありますが、呼吸の異常を十分に抑えられる可能性は、一般にCPAPの方が高くなります。
CPAPを続けにくい場合は、その原因への対応や、ほかの治療を相談します。「CPAPを使えないから、何もしない」という二択ではありません。
CPAP療法とは?どのような効果を目指す?
CPAPは、睡眠中にマスクから空気を送り、その圧で気道が塞がるのを防ぐ治療です。 気道を開いた状態に保ち、無呼吸や低呼吸を抑えます。
治療で目指すのは、睡眠中の呼吸の改善に加えて、日中の眠気や睡眠に関連する生活上の支障を軽減することです。高血圧を伴う方では、血圧の管理に役立つ場合もあります。ただし、期待できる効果には個人差があります。
CPAPは、眠くない人には意味がない?
日中の眠気がないことだけで、治療が不要とは判断できません。 呼吸停止を繰り返していても、眠気をあまり自覚しない方がいます。検査結果と、眠気以外の症状や持病も合わせて考えます。
一方、眠気がない方に、治療の利益を一律に保証するものでもありません。「自分の場合は何を改善する目的で治療するのか」を、結果説明の際に確認してください。
マスクが合わない場合は、すぐ別の治療に変える?
まず、何が使いにくいのかを確認します。 空気漏れ、乾燥、鼻づまり、マスクの圧迫感などは、マスクや加湿、機器の設定の見直しで改善できる場合があります。
調整しても続けられない場合は、別の治療について相談します。無理に我慢し続けることと、自己判断ですぐ中止することの、どちらかを選ぶ必要はありません。
マウスピース治療は、どのような人に向いている?
睡眠時無呼吸に使うマウスピースは、主に下あごを前方に保ち、喉の空間を確保しやすくする装置です。 軽症・中等症の方や、CPAPを使用できない方などで選択肢になります。
適応は、無呼吸の程度だけでなく、歯や歯周組織、あごの状態なども踏まえて判断します。診断後に、対応する歯科で装置を作製・調整してもらいます。
市販のいびき用・歯ぎしり用のマウスピースを自分で装着することと、医科・歯科で連携して行う睡眠時無呼吸の治療は同じではありません。 治療後も、歯やかみ合わせへの影響と、睡眠中の呼吸の改善を確認することが大切です。
「小さくて持ち運びやすい」という利点だけで選ぶのではなく、自分の無呼吸を十分に抑えられるかを確認しましょう。
減量や横向き寝だけで、治療できる場合はある?
原因や睡眠中の呼吸の特徴に合っていれば、生活習慣や寝る姿勢の調整が役立ちます。 ただし、CPAPなどの代わりになる場合と、併用する補助になる場合を分けて考えます。
過体重・肥満がある場合の減量
肥満が関係している場合には、減量で無呼吸の程度が軽くなることがあります。食事や運動などを通じた体重管理は、治療と並行して取り組む重要な対策です。
ただし、減量できるまで、必要な治療を待つという意味ではありません。 また、痩せている方にも睡眠時無呼吸は起こるため、全員がさらに体重を減らせばよいわけではありません。
仰向けで悪化する場合の体位療法
仰向けで呼吸の異常が増え、横向きでは少なくなる方では、仰向けを避ける体位療法が役立つ場合があります。一方、重症例では寝方の調整だけでは十分な効果を得にくく、ほかの治療が必要になることがあります。
「横向きでいびきが静かになること」と「無呼吸が十分に改善すること」は別です。 寝る姿勢を治療として用いる場合は、呼吸への効果を確認します。
飲酒や睡眠習慣の見直し
飲酒を控える、睡眠時間を確保する、禁煙に取り組むことも、睡眠の健康を保つ基本です。生活習慣を整えることは大切ですが、それだけで必要なCPAPやマウスピースの代わりになるとは限りません。
手術を検討するのは、どのような場合?
気道が狭くなる場所や原因、CPAPへの適応・使用状況などを踏まえて、手術を検討する場合があります。 扁桃や喉、あごの骨格に対する手術などがあり、どの方法が適しているかは専門的な評価が必要です。
ただし、「あごが小さいから手術しかない」「鼻づまりがあるから手術が必要」ということではありません。 米国睡眠医学会のガイドラインでは、成人の睡眠時無呼吸で上気道の形態的な問題がある場合でも、原則として手術の検討前にPAP療法を初期治療として提案しています。
鼻の手術で、CPAPをやめられる?
鼻の手術は、鼻呼吸を楽にしたり、CPAPを使いやすくしたりする目的で役立つ場合があります。一方、鼻の通りが改善しても、睡眠時無呼吸の指標への効果は限られることがあります。鼻を治療したことだけで、CPAPが不要になったとは判断できません。
適した患者では、舌の動きを支える神経を刺激する植込み型装置による治療も選択肢になります。ただし、これも誰にでも行う方法ではなく、実施する医療機関での適応評価が必要です。
薬で治療する選択肢はある?
条件を満たす一部の閉塞性睡眠時無呼吸では、薬物療法も選択肢になっています。
日本では2026年5月、チルゼパチド製剤「ゼップバウンド」に、BMIが27以上の中等症以上の閉塞性睡眠時無呼吸症候群という適応が追加されました。すべての睡眠時無呼吸に使用する薬ではありません。
実際の使用には、検査による診断、食事・運動療法の実施、医療機関の体制などの条件があります。最適使用推進ガイドラインでは原則BMI30以上を対象とし、BMI27以上30未満では必要性を慎重に判断するとされています。体重や検査の数字だけで、すぐ処方が決まるわけではありません。
また、吐き気や下痢などの副作用もあり、使用中の評価が必要です。薬を開始したことだけを理由に、必要なCPAPを自己判断で中止するものではありません。
ここでは一般的な治療の選択肢として紹介しています。薬物療法を希望する場合は、対応する医療機関で、適応と使用条件を確認してください。
重症度と、CPAPの保険適用条件は同じ?
医学的に検討する治療と、日本の保険診療で受けるための条件は、分けて確認する必要があります。
2026年度の国内の保険診療では、CPAPについて、無呼吸低呼吸指数に加え、強い自覚症状による日常生活への支障や、睡眠検査に関する要件が定められています。一定の条件を満たす場合には、簡易検査から治療につなげられる規定もあります。
したがって、冒頭の重症度別の表は、「その区分なら、どの治療でも保険で受けられる」という一覧ではありません。 検査結果、症状、希望する治療を踏まえて確認してください。
また、CPAPの保険適用条件に当てはまらない場合でも、「呼吸の異常がない」「ほかの対応も不要」と決まるわけではありません。検査の追加や、マウスピースなどの選択肢を含めて相談します。
治療を始めたら、何を確認する?
「実際に使えているか」「睡眠中の呼吸が改善しているか」「本人の困りごとが変わったか」を分けて確認します。 CPAPでは機器の使用状況や呼吸のデータ、マスクの問題などを確認しながら、治療を続けます。
例えば、いびきが静かになっても、無呼吸が十分に抑えられているとは限りません。マウスピースでも、装着できていることと治療が十分に効いていることは別で、必要な睡眠検査による効果確認が勧められています。
一方、呼吸のデータが改善していても、眠気や疲労感が残る場合があります。その際は、治療の使用状況だけでなく、睡眠時間なども含めて担当医に伝えてください。
治療で数値がよくなったら、やめてもよい?
治療中に呼吸がよくなっていることと、治療なしでも正常になったことは別です。 CPAPは、使用中に空気の圧で気道を保つ治療なので、良好な使用中の数値だけで中止を決めないでください。
大きく減量した、症状や持病が変わった、治療の負担が増えた場合は、継続方法を見直すきっかけになります。再検査が必要かも含めて相談し、自己判断で治療を外さないことが大切です。
治療方法を決める前に、何を相談するとよい?
診察では、検査の数値だけでなく、何に困っているか、どのような治療なら続けられそうかも伝えてください。
例えば、次のような聞き方です。
「私の重症度では、まずどの治療を考えますか。眠気の改善と、睡眠中の呼吸を抑えることの両方について知りたいです。マスクの使用には少し不安があります。」
治療を選ぶときは、効果と負担、本人の希望を共有することが重要です。最初から希望する方法を一つに決めて受診する必要はありません。
なお、運転中に眠くなる、居眠りしそうになる場合は、治療方法を比較している間も運転を控えてください。 検査や治療の予定が入っていることは、現在安全に運転できるという意味ではありません。
川越ひさいクリニックで、睡眠時無呼吸の検査・CPAP治療を相談する
川越ひさいクリニックでは、睡眠時無呼吸が疑われる方に、オンライン診療と自宅での簡易検査を組み合わせた診療をご案内しています。
診察で症状を確認し、必要に応じて自宅簡易検査をご案内します。検査機器はご自宅へ郵送されます。届いた機器の説明を読み、ご自宅で装着して検査を行っていただく方法です。
予約 → オンライン診察 → 検査機器の郵送 → 自宅で検査 → 結果説明・CPAP治療の適応判断
検査後は結果をご説明し、CPAP治療の適応を判断します。検査を受けた方全員がCPAP治療を始めるわけではありません。
この記事は治療法全般の解説であり、掲載したすべての治療を当院で実施するという案内ではありません。 マウスピースの作製や手術、薬物療法については、それぞれに対応する歯科・医療機関での相談が必要です。
「いびきや呼吸停止を指摘された」「睡眠時無呼吸の重症度を調べたい」「検査結果を踏まえてCPAPが必要か相談したい」という方は、WEB予約からご相談ください。